はじめに
ジェネリック医薬品という言葉はみるみるうちに社会に浸透し、ありふれた言葉になりました。
薬局で「ジェネリックご希望ですか?安くなりますよ」と言われると、いまだに何かウラがあるんじゃないかと勘繰って不安になってしまうのが人間だと思います。
センシティブな話題なので
最初にこのブログでの結論を記述しておきます。
ジェネリック医薬品は非常に有用な選択肢であり、利用を検討する価値がある、というものです。
(ジェネリックは全部が危険だ!と喧伝されたい方は、ここでお帰りください。)
私が大学生のころは理解するまでに時間がかかりましたので
以下では、かゆいところに手が届く情報を記述していきたいと思います。
注意:
- 難しい内容を多く含むので、ご注意ください。
- 記事の投稿日以降、各種環境が変化している可能性がありますのでご注意ください。
- 本記事の構成は、「少し懐疑的」⇒「私個人の安心材料」という構成になっています。長文ですが印象が偏らないよう、後半までお読みください。
- 本記事の内容は、先発医薬品とジェネリック医薬品の優劣や、個別の製品の品質や優劣について結論付けるものではありません。
- 概要を理解しやすいよう一部平易な表現を用いている部分もありますが、気になる情報があれば必ず公的機関等(厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)、都道府県保健所、その他関係団体等)の公開している情報を参照するようにしてください。
- 本記事で述べる「ジェネリック医薬品」には、バイオシミラーの概念を含んでおりません。
- 総合的な結論は冒頭に記述した通りです。本ブログ/記事の転載・抜粋等を固く禁じます。
ジェネリック医薬品は、先発医薬品と「まったく同じ」なのか?
一般には、まったく同じものではありません。(先発医薬品とまったく同じジェネリック医薬品もあります)
「有効成分」と「有効成分の含有量」は同じですが
「添加剤」の内容は異なります。
(使うことのできる添加剤は別途決められています。(第十八改正日本薬局方 製剤通則より抜粋:(略)製剤には,必要に応じて,適切な添加剤を加えることができる.ただし,用いる添加剤はその製剤の投与量において薬理作用を示さず,無害でなければならない.また,添加剤は有効成分の治療効果を妨げるものであってはならない.))
加えて、「有効成分が水や胃酸に溶け出す速度」や「人に投与した時の血中濃度の推移」などが同等であることを確認しています。
医薬品の承認を受ける前提として「製造方法」「長期保存時の安定性」「品質管理」などの品質面ももちろん確認されています。
(余談)
政府広報(2023年9月4日)には「先発医薬品と同じ有効成分を同量含んでおり、(先発医薬品と)同等の効き目がある」と記述されていますが
「同等の効き目がある」というのは誤りとは言えないものの誤解を招きやすい表現だと思います。
先発医薬品のように多くの患者さんに実際に投与して得られた病気の治療結果が同等だと確認されたのではなく、
有効成分(医薬品の有効性・安全性に影響するもの)の量や体内での血中濃度推移等が同等だと確認されています。
ジェネリック医薬品を販売する前には、6~10年にわたる先発医薬品の「使用成績調査/再審査」が終了していることが必要です。この長年にわたる先発医薬品(の有効成分)の使用実績情報があるので、ジェネリック医薬品が認められているという構図です。
ジェネリック医薬品は、なぜ安いのか?
とても簡単に言うと、2点が主な理由です。
ジェネリック医薬品ならではの苦労というのも多くありますが、総合的にコストがかかりません。
①「作るべきものがほぼ決まっている」から、研究開発投資が少ない
新医薬品の成功率は数万分の一と言われています。言い換えると、何万種類もの薬の候補を作って(又は集めて)、それらの有効性や安全性について、ひとつひとつ実験しなければなりません。
多くの候補から有効成分を選び出したり、有効成分の投与量を決めたりするだけでも大きな試行錯誤を伴います。
この点、ジェネリック医薬品には「先発医薬品」という1つのお手本があるので、探索的な研究開発のコストが下がります。
②「先発医薬品のデータを前提として利用できる部分がある」から、研究開発投資が少ない
新医薬品(≒先発医薬品)の治験には現在、~数千億円レベルの初期投資が必要なこともあります。
ジェネリック医薬品には、これら治験を含む先発医薬品の有効性・安全性データを前提として、先発医薬品と同等の医薬品であることを証明することが求められます。
①②より研究開発投資が少ないということは、投資を回収するために必要な売上高も少なくて済むため
先発医薬品よりも安価に設定されています。
(一部、例外的に先発医薬品よりも価格の高いジェネリック医薬品も存在します)
ジェネリック医薬品は、品質が低いのか?
この点、答えはNoといってよいでしょう。
(過去にも存在した、悪質な組織ぐるみの品質不正事件等の例外を除く)
上述の通り、医薬品としての品質は様々な観点から規制当局が確認して承認されています。
このような懸念を招く要因として考えられるのは2点ほどあろうかと思われます。
①価格が安いこと(安かろう悪かろう、の先入観)
②日常的なブランドイメージの醸成が難しい
②については
ジェネリック医薬品の利幅が小さいため、一般向けの広告宣伝費の捻出が難しいという面があります。
大手新薬会社の会社CMやドラッグストア販売の風邪薬CMの方が消費者向けブランドイメージを醸成しやすいかもしれません。
ジェネリック医薬品のメリット・デメリットは?
先発医薬品と比較して、患者さん目線でのメリットとデメリットを列挙します。
【メリット】
- 価格が安くすむ
- 味や飲みやすさ、貼りやすさの改良など、先発医薬品よりも進化したジェネリック医薬品がある
- 企業独自のノウハウ、特許技術などを用いたジェネリック医薬品がある
【デメリット】
- 「その製品自体」の使用実績は少ない
- 特に塗り薬・張り薬などは使用感が異なることがある
- 現実問題として、患者側はジェネリック医薬品の銘柄を指定することが難しい
- プラシーボ効果で効果の実感が変わることがある
- メーカーの問い合わせ対応体制が比較的小さいことがある
ジェネリック医薬品に賛成/反対する方々の主な主張は?
ジェネリック医薬品の普及には様々な立場から賛否両論があります。
(一般的に見聞きする/当然に考えられる声を参考までに列挙したものです)
【ジェネリック賛成・推進意見】
・当局・保険組合・医療現場「医療/薬剤費の伸びが急激で、国民皆保険の財源がなくなってしまう」
・医療現場「添加剤は有効性・安全性に影響しないので、少しでも患者さんの費用負担を減らすべき」
・医療現場「診療報酬改定に合わせて、診療報酬加算が確保できるように利用割合を高めたい」
【ジェネリック反対・慎重意見】
・医療現場「違う添加剤のものは別の製品。投与実績の多い先発医薬品を使った方が良い」
・医療現場・患者「試しに切り替えてみたら、使用感が悪くなった/(良くなった)」
・製薬業界「リスクを取って大規模な研究開発投資をしたのに、後付けのルール改訂で製品シェアを奪われ、投資に見合った売上が受けられない(直接の価格決定権無し)」
・製薬業界「将来の投資回収の予見性が低下しており、ハイリスクな新薬開発への投資に躊躇する」
ジェネリック医薬品への抵抗感・不安感が和らいだ気づき
正直に述べると、私は「添加剤が違うなら、別物として慎重に捉えるべきでは」という立場で考えていました。
あるとき、「一般用医薬品(=OTC医薬品、ドラッグストアで購入できる医薬品)の承認申請ってどうなっているんだろう?」と調べているときにふと気づきました。
「ジェネリック医薬品は先発医薬品と別物だと考えていたけど、自分はドラッグストアで買った、治験もされていない薬を特に不安なく飲んできたな」と。
「ドラッグストアで薬を選ぶとき、有効成分の中身や含有量、製造業者は注意深く見比べるけど、添加剤は特にこだわらずに受け入れて飲んできたな」と。
治療対象の病気など、意思決定の際の心境にも依存するかもしれませんが
この時をきっかけに、私はジェネリック医薬品への心理的ハードルが大きく下がりました。
私は薬について、漢方薬のように「様々な要素が組み合わさって一つの薬として成立している」という東洋医学寄りの解釈をしているタイプだと認識していたのですが
客観的に自分自身の思考回路を振り返ってみると、まさに西洋医学寄りの解釈をしており、自分でも驚いた経験でした。
結論
(薬価設定含めた企業の投資回収の問題は本記事では触れません)
再掲です。
ジェネリック医薬品は非常に有用な選択肢であり、利用を検討する価値があると思います。
・価格メリットがある(個人と社会)
・有効成分の量と、体内の血中濃度等推移等が先発医薬品と同等
・先発医薬品と添加剤が異なることが多いため、「何から何まで完全に同じもの」ではない
・新技術改良等のメリットを受けられる可能性がある
・使用した感想や過去の組織ぐるみの品質不正事例などから、ジェネリック医薬品に慎重な人もいる
個々の医薬品ごとの特徴はそれぞれなので
不安なこと、分からないことがあれば
処方される医薬品について医師・薬剤師にためらわず質問してみるのがよいでしょう。
参考情報
情報収集の入り口として参考になりそうなページをいくつかご紹介します。
一般的な情報というよりは、少し懐疑的な方向け、専門的な内容を含むページを中心に選んでいます。
厚生労働省 「ジェネリック医薬品への疑問に答えます ~ジェネリック医薬品Q&A~」を作成しました
日本ジェネリック製薬協会 ジェネリック医薬品とは ジェネリック医薬品ネガティブQ&A 生物学的同等性試験
健保連 コラム vol.92 (※先発医薬品を選ぶと少し負担金額が増える制度が始まりました)