今の仕事がなくなるということ

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はじめに:「AIによってなくなる仕事、なくならない仕事」は本当か?

2020年代に入り、AIの話題は日常の至る所にあふれるようになりました。

  • OpenAI社のChatGPTは発表から1年もしないうちに日本の一般ユーザーにも浸透
  • 企業のテレビCMにAIで作られた架空の人間のCG映像が登場
  • 数個のキーワードからAIが高品質な画像や映像を生成
  • 攻撃者はAIを用いてコンピュータウイルスをつくり、それに対してAIで対抗

AIのポテンシャルについては多くの人が疑うところはないでしょう。
しかし、「AIによって奪われる」と言われている多くの仕事は、本当になくなるのでしょうか。
一つ一つの仕事と代替可能性の考察を見ていくと、単純作業や定型業務など、AI・ロボットにより代替が可能そうだとイメージがつくでしょう。
考えるべきは、その仕事が「なくなるかどうか」ではなく「いつなくなるかではないでしょうか。
生成AIの進歩が加速度的であることをみても、世の中の変革スピードはどんどん増していくかもしれません。

私の場合:薬剤師の仕事はなくなったか?

私は薬学生の頃から「臨床薬剤師は10年もすれば不要になるのでは?」という悩みがありました。
当時AIはほぼ映画の中だけの話でしたが、既にITを活用した多くの変革を感じていたためです。
これらが浸透すれば、機械が自動で処方のミスを指摘し、ヒューマンエラーもなく短時間で調剤が終わってしまうだろうと。

  • 電子カルテの導入、「飲み合わせ」禁忌のアラート機能
  • 医療機関をまたいだ診療データの相互閲覧の試験導入(特定地域の取り組み)
  • QRコードによる処方箋内容の電子読み取り
  • 調剤の自動化ロボットの流通(錠剤や粉末の一包化、シロップ剤の自動計量)

そこから10年以上経った現在、薬剤師の仕事がなくなっているかというと
その気配は全くありません。むしろ人手不足という話もあります。
人間の能力が不可欠な例をいくつか挙げますが、高度な対人スキルと情報処理能力が求められるので、なくなっていないのは当然ともいえます。

  • 患者さん、医療従事者に合わせたコミュニケーション(効果的な聞き取りと提案)
  • 添付文書情報以外に、最新の論文や学会情報を適切かつ総合的に判断する能力
  • 専門知識をもとに、流動的な会話の中で即時的にディスカッションが可能
  • 患者さんの状態を考慮した臨機応変な調剤
  • など…

10年以上前に薬学生がイメージ図を描けそうなほどだった調剤業務はどうなっているでしょうか。
ごく一部の例外を除き、一般的な調剤薬局ではまだまだ人の手で調剤を行っています。
電子薬歴関連のシステムが拡大していたり、患者さんの呼び出しシステムが導入されたりしていますが
学生時代の私が「機械化・自動化できるのではないか」と感じていた点はあまり代替されていません。

多くの方々が関与しているもの、特にアナログ関連のものを変えるには
現場が特に反対しなくても相当な労力と時間、金銭的投資を伴うものです。
将来の変革を考えてから実現されるまでは相当のタイムラグがあるでしょう。
「こんな未来が来るかもしれない」という情報収集を怠らなければ、事前の準備ができるはずです。

社内改革で「仕事がなくなる」ことへの抵抗

これまでコンサルタントとして多くの企業のプロジェクトに関与してきましたが
社内の業務や組織体制を変えていく際、実務担当者が反対するケースに何度か遭遇しました。

その際、どこからともなく「あの人は自分の仕事がなくなるのが嫌なんだよ」という声が聞こえますが
私はその解釈に手放しで同意できません。

「今の仕事は会社や社会から必要とされていない、無価値である」と感じた場合、
人生一回きりの貴重な時間を使ってそんな価値のない仕事を進んでやり続けたいでしょうか?


変革に反対するのには様々なパターンが考えられます。

  1. その仕事の価値を担当者だけが正確に把握できている
    (例:外から見ると伝票を手入力しているだけだが、実際にはエラーチェックの役割が重要)
  2. その仕事の価値を担当者が過大評価しており、認識ギャップがある
    (例:こだわった業務手順で行っているが、上流・下流の人は全くその恩恵を受けていない)
  3. その仕事の価値によらず、「自分の価値を認めてほしい、不利益を受けたくない」と考えている
    (例:なくす業務の担当者の活躍先が全くの白紙、または評価が下がるという見方が出ている)
  4. お金のためだけに働いており、努力せずに現在の収入を得たいと考えている
    (例:とにかく楽をしてお金を稼げればよい、「逃げ切り」ができればよいと考えている)

上記のうち1.-3.についてはコミュニケーションや計画を充実することでお互い歩み寄れるはずです。
特に1.のケースでは、業務の核心をとらえないまま変革を起こそうとしている可能性があり、リスクのシグナルを注意深く拾っていく必要があります。

「仕事がなくなる」をポジティブに受け止められるか?の時代へ

AI技術の急成長で示されるように、今後の社会はさらに速いスピードで変わっていくでしょう。
プロンプトエンジニアという職業を5年前に想像できていた人はどれぐらいいるでしょうか。
現時点で創造もつかない仕事はこれからも続々と生まれてくるでしょう。

「AIに代替できない仕事」を選ぶのは気が引けますが、「価値や魅力を感じられる仕事」は必然的にAIなどが代替しにくい仕事に近くなるはずです。
既存の仕事はどんどん淘汰されていくかもしれません。これを「次への進歩のステップである」とポジティブに受け止められること、その際に新技術をうまく取り込み活用していくことこそ、今後の企業や従業員にとって重要なことではないでしょうか。

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